現在、企業とNPOとが協働して新たなサービスを構築していくべきではないか、という問題意識が社会に本格的に流れ始めているのはご存じだろうか。一部の市民活動家が勝手に声高に叫んでいるのではない。理念としてだけでない。国や県、そして大きな企業もまた動き出しているのである。
しかし、まだまだこの動きは十分に認知されているとは言い難い。そもそもNPOという存在自体が実は一般的な存在として知られていないからだ。全国に40000以上もNPO法人が存在するのに(なお、全国のコンビニエンスストアの数よりも実は多い。)。
6月14日、神奈川県主催のイベント『企業とNPOのパートナーシップミーティングvol.01』というものに出席してきた。
今回はこのイベントで基調講演を行われた、横浜市立大学CSRセンターLLPセンター長影山氏の『経営戦略としての社会貢献活動~企業とNPOの協働に向けて~』を中心にレポートしながら、まず神奈川県で今なにが起こっているのか、ということを紹介できればと思います。
影山氏のメッセージは企業サイドに向けられたもの。
以下のような視点もあるのだ、という提案型の講演です。
そこで述べられているのは、ずばり、
「企業は経営戦略としてNPOを積極的に活用すべし。」
というもの。
企業の社会的責任としてCSR活動が注目され始めたのは随分前であるが、それらはどちらかというとプロボノ的というか、慈善活動的であり、本業の利益を上げるような性質ではなかった。
影山氏は、そのようなCSR活動を経営戦略として本業の利益を上げるために活用すべきと主張する。その論理は、次の通りです。
ビジネスモデルの変化
これまでのビジネスモデルの主要なスタイルは、X社がAというサービスをYという人や法人に対して提供し、XはYからサービスの対価を受け取るというものだった。
しかしこのモデルはもう古く、次のようなモデルを構築すべきと言う。
X社はAというサービスをYに提供し、X社はZという第三者から利益を得られる仕組みづくりがこれからのビジネスモデルだと。
私は氏の主張するモデルが戦略として正しい方向性であると一方において思いますが、すべての事業がそうかというとそうではなくて、、ここでいうところの旧モデルがあってこその新モデルであると考えています。まぁ、そんな抽象的な話をおいておいて・・・
社会貢献型モデルの提唱と二つの効果
影山氏は、以上の考えを前提に「社会貢献活動」を2つの方向から推奨する。すなわち、対外的戦略と対内的戦略の2つの方向です。
(1) 対外的戦略
産業構造が変化して、日本の消費文化は変化を迎えている。つまり、これまでは経済成長を前提として、生活が便利になるモノに対する消費が日本を支えていた。
しかし、経済成長がほとんど期待できず、ある程度物質的にも豊かになった現代社会においては、消費は感性を動かすものに向かうと氏は言う。これが意味することは、自己実現に向けた消費ということだ。
社会貢献という分野で言い換えると、これまでの経済社会において社会貢献とは利益追求と結びつけてはならず、誰にも口外せずにこっそりと行うことが美徳とされていた。
「当社は社会貢献をやってますのでどんどん当社のサービスを利用して下さい!」なーんて言っちゃう会社に応援しようとなかなか思わないのが普通だろう。
しかしながら、これからの時代は、消費者は社会貢献を通じて自己実現を図るという方向性に動いているため、過度な利益追求の姿勢は避けるべきだとしても、これまでの営利事業と社会貢献事業を区別せずに連続性を持ったカタチで、企業サイドは自分たちのサービスがいかに公益的で社会貢献的なモノなのかをアピールすべきというのだ。
たしかに、キレイになりたいとか、おいしいモノを食べたい、カッコイイ車に乗りたい、便利な道路をどんどん作ってほしいというような消費者のニーズは、様々カタチで実現されつつある(大きなところでは)。キレイになるにも美味しいモノも安価なサービスが普及し、さらなるお金をつぎ込むにはそれ相応の目的がないとなかなか難しい。
■ ボルヴィックの事例
ボルヴィックのCM(1L⇒10L)を知っている人は多いでしょう。ボルヴィックを一本買えば、アフリカで10Lもの飲料水が提供される。消費者はボルヴィックを購入することでアフリカのたくさんの少年たちを救っているのだ、という自己承認欲が満たされるのです。この戦略はボルヴィックに収益の増加を招いたと言われていますが(客観的データを僕は見てませんが)、仮に直接増収につながらなくとも、たとえば「こういう社会的に意義のあるサービスをやっている会社なら、ほかのサービスも利用してみようかな」と思う人はいるわけです。
このような一つのマーケティング戦略としてNPOを活用すべきではないかというのが主張です。
■ なぜNPOなのか
これは端的に、NPOほど社会的課題にストレートに対処している団体は他にいないから、というのが答えです。もちろん、あらゆる企業活動が何らかの社会的意義を持っているのは確かです。しかし、あくまでも営利企業というのは収益モデルが構築できる分野でサービスを提供しているのであり、社会に無数に存在する課題に営利企業だけで対処することは実際上不可能でしょう。
その収益性を狙うことが実際上不可能な社会的課題に取り組む専門家がNPOなのだと、そういう主張ですね。そして、そのような活動に、消費者の共感は生まれるのだと。
(2) 対内的戦略
マーケティング戦略とは別に、社内の生産性向上のためにNPOは使えるとも、氏は言います。社内マネジメントの側面です。
私たちが潜在能力を開花させるようなときとはどういうときでしょうか?
使命感を持ったとき、というのが一つ挙げられるのではないでしょうか。使命感は、極めて高いモチベーションを生み出すことができるからです。
ところが、なかなかこの使命感を感じる機会というのは多くない。日常の仕事に追われているとき、その目の前の仕事に社会的な使命感を感じることはほとんどないのが普通でしょう。
そうすると、日々の仕事に忙殺され、徐々にタスクを処理するかのごとく、業務に対するモチベーションが低下してしまう。そうすると生産性がどんどん落ち込んでしまいます。
そこで、企業は自社のサービスに関係する社会的課題に取り組むNPOの事業に、社員研修という名目で参加することで、自分たちの事業がそのような社会的課題に直接ないし間接的に影響し、社会的意義を実感することができるようになります。そうして社員にサービスの目的や理念といった抽象的なところまで会社にコミットメントされることが期待でき、会社全体の志気や生産性を向上させることができるのだ、という論理です。
NPOは社会的課題への専門家
先ほど、NPOが社会的課題に取り組む専門家であると書きましたが、企業が同じようなことをやって、全面的に「社会貢献してます」と言うと胡散(うさん)臭く感じる人は少なくないでしょう。
これは論理とかではなく、感情の問題だろうと思います。
「え、感情論?」って反発心を感じる人はいるでしょうが、この感情論が今後はキーになると一貫して影山氏は主張されているのです。
この感情の問題を乗り越えるためには、「NPOと協力して社会貢献に取り組んでいます」とNPOをクッション材として活用することで、感情的な反発心は消滅し、消費者は安心して企業のサービスを利用できます。このメリットは頭で考える以上に大きい。
以上のように、社会貢献を切り口とすることが、最後の事業モデルなのだと仰っていた。
僕はこれが最後のモデルなのかどうかというのは分からない。
ただ、僕も企業が消費者の感情に訴えかけるサービスを提供すべきであり、その手法としてNPOと協働(パートナーシップ)事業を行うのは、とても現実的な考え方だと思っている。
これまでNPOの組織的な弱さから、協働事業の実現はだいぶ遠いと考えてきた。実際、その点は大きな課題として今後乗り越えていかなければならないが、企業サイドとしてもNPOとパートナーシップを組むことで現状を打破できる可能性があるというのはNPOサイドとしても非常に好材料だと思う。
パートナーシップと言ってみても、その形態は様々です。
NPOの活動を支援するものから、企業のサービスをNPOと考案したり、協働で新しいビジネスを展開するなど、個々の事例が今後どんどん蓄積されれば、それに伴って協働事業は倍増していくだろう。
そうすると、やはりNPOの業界は確実に競争環境にさらされていくのは違いない。そのような中でいかに早く安定した地位を確立できるか、という視点もNPOサイド(特に運営者)は感じておく必要があると思う。
3年先・5年先・10年先を見越した、自身のサービス内容のあり方も検討しつつ、どんどん実践していく必要がある。今後このような機会には積極的に顔を出し、様々な人と意見交換していきたいと思う。