地域経済に新たな経済主体が登場することにより、新しい雇用が生まれたり、経済への参加者が多様性も含めて増える。そんな考えで特定非営利活動法人(NPO法人)を今後も後押ししていきたいと考えていた。その考えは何も変わらないけど、他方でずっと違和感もあった。それは「NPOと一口に言ってもその性格は様々であり、後押ししようにもそれを求めていない団体が多すぎる」という感覚だった。
ただ、それは私自身がぼんやりとNPOという言葉で特定非営利活動法人の全てを括ってしまっていたことに原因があると気が付きました。
もともとNPO「法人」制度は、ボランティア団体に法人格を付与させるという必要性に基づいて設けられたものだった。1995年の阪神淡路大震災の際にボランティア団体が活躍したが、ボランティア団体が法人格を得ていないと迅速に契約関係を構築することができないなど、それまで不都合が多かったからです。
その後、NPOという概念に対して、営利追求ではない点を賞賛する声が大きくなり、社会起業家という言葉が生まれたりと、「崇高な理念に基づいた活動」として行政・営利企業とは異なる経済主体としての地位を築き始めています。その動きはそれなりに大きくなっており、今後は行政とNPOの協働事業や、企業とNPOの協働事業が活発化してくることは間違いありません。俯瞰すれば、という話ですが。
しかしほとんどのNPOは法人格を取得することに目的があった
とはいえ、現在4万以上存在するNPO法人の内、実際に協働事業をやっていける法人はほんの一握りに過ぎません。今後増える見込みは十分ありますが、現時点で行政や企業のように歴史があり運営方法も確立された団体とパートナーとして活動できるようなNPO法人を育て上げることは、かなり無理しないといけないでしょう。
それにNPOといっても、当人たちにとっては法人格が取れて税金があまりかからなければ(NPOというカタチでなくとも)何でも良いと考えているケースが圧倒的に多い。
そもそもNPOだからかくあるべき、という議論はおかしいのです。
株式会社だから、持分会社だから、組合だから・・・というような議論が存在しないように、NPOだから・・・っていう議論もまた出てくること自体がおかしいのです(税制面は検討の余地あり)。
逆に言えば、NPOだから良い活動であり、NPOだから皆で寄付を利用して支えるべきって発想もおかしいわけです。
「NPO」という枠で括るのはもう止めにしよう
あらためてNPOという言葉に目を向けたとき、そこには非営利組織という意味しかない。非営利組織とは、事業で上げた収益を社員に分配しない組織を言います。NPO法人だけでなく、社団法人・財団法人・医療法人・社会福祉法人・学校法人なども全部非営利組織に含まれます。NPO法人というのは、特定非営利活動促進法に基づいて設立された法人という意味でしかありません。
そこに立ち返って、行政や企業と協働するにふさわしい事業を営利だろうが非営利だろうが選別していくことが大切です。
もしその選別対象に入りたければ、必然的にNPOの中でも方向性がハッキリと分かれてきます。そこには競争があって構わないでしょう。
社会的課題に対して事業として向き合いたいと考えれば収益を上げなくてはならないですし、収益を上げるためには考えなければならないことがたくさん出てきます。
そういうことが煩わしければ、収益性は考えずにボランティアとして活動していけば良い。そういう活動も特定非営利活動促進法で想定されているわけです。
収益性があるかどうかは、NPO法人としての良し悪しの問題ではないわけです。
便宜上「NPO」という言葉は今後も使いますが、それはあくまでも「特定非営利活動法人である」というハコを指すものでしかないことを念頭においておきたいと思います。
「協働」を考える前に
いま神奈川県では「協働」を実現すべく県の予算が組まれています。その目的を実践するためにコンサルティング会社に事業を発注もしており、意欲ある団体には大きな良い波が来ている時期であることには違いありません。
しかし「協働」を実現するには、それを実現していきたいと考える行政なり中間支援組織などが、その過程で解決すべき課題をあぶり出し、その課題に対処するための具体的なロードマップを描かないといけません。いつまでに何をどのようにして、その後どのように進めるのか。これを日程として十分作っているかどうかが重要です。話し合いだけではなく、具体的な「計画書」として書き出すことが欠かせません。
今はこれができているかどうか、という点が気になっています。
「協働」を実現するためにはまずはアイドルを
akbではありません。ももクロです(違
まずはスター性のあるNPOを1つでも多く生み出すことが大切です。
市民活動に参加している人たちにとってだけのスター性ではなく、市民活動に全然興味のない人たちにも「すごい!」と思わせるNPOを創り出すのです。そうしてNPOの認知度を上げる必要があります。
ところが様々な資料を拝見していると、まずは市民に寄付文化を根付かせる・・・とか、NPOが活躍できるように市民の意識改革を・・・なんてことが平気で書かれているわけです。
発想が全然逆ですね。
寄付文化というのは「寄付をしたい」と思わせる社会を作りだすことが先なのです。ただぼーっと待ってても「市民に寄付文化を根付かせる」ことなんて実現しないわけです。NPOが活躍できる社会を作るには、先駆的なNPOを作りだして行くしかないのです。
「協働」に向けて
NPOが事業として活躍するためには、「まずは共感を生む情報発信を」と言われる場合もありますが、それも間違いです。まずはそこじゃない。
情報発信というのはマーケティング・レベルの話であって、現在問題になっているのは組織論のレベルであったり、それ以前の計画レベルの話しなのです。
「協働」の実現には、NPOがどう考えるかよりも、行政や企業がNPOと「協働」したいと思うことが必要です。
人が他人と何かを始めたいと思うかどうかは、口が上手いとか、外見がステキとかよりも、信用できるかどうかがまず大切になってくるはずです。これは事業でも同じなのです。
NPO法人を構成する個々の役員や職員の人たちは、人生経験もあり、非常に魅力的な人たちが多い。しかし、そのことと法人の信用性とは全く別です。法人の信用性は、法人自体の財務基盤であったり、事業内容・事業戦略、実績なのです。これはNPOも株式会社も同じです。
これらがとりあえずきちんとしてから(きちんとさせながら)、事業を広げたり、寄付を募っていくために情報発信力などが大切になってくるのです。
以上、少し攻撃的な内容になってしまいましたが、どうも「耳当たりの良い」言葉ばかりが蔓延してしまっており、問題の本質が避けられてコメントされているような印象が強く感じられましたので、あえて書きました。
それと、もう一つ気になることがあります。
営利企業VS非営利企業というのは収益の流れに関する基本的な違いに過ぎず、社会的課題がどうとか、倫理的であるかどうかなんてことは全く関係のない話です。少なくとも、まっとうな事業と言うのは社会的な課題の解決や、未来を作りだすという役割を担っており、これまでもそれは株式会社を始めとする営利企業によって実現されてきたという事実がおざなりになっている気がします。
社会起業というのは、これまでの営利企業のやり方では収益性がないため解決できない・踏み込むことのできない課題に対して、事業として解決してく起業です。収益をサービスの対価としてではなく、社会から上げる起業。そういう仕組み作りをすることが重要なのです。
NPOや公共という言葉が用いられるとき、その意図に十分に注意して議論されなければなりません。なによりも、NPO自体がどのようなスタイルを実現したいと考えるのか十分に検討される必要があります。
そして、収益性を高めたい団体に対しては私も事業としてしっかり関わっていきたいですし、収益性に今のところ関心のない団体に対しては、その団体に合った事業をできるように提案をしていきたいと思います。