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2012年3月25日

請負契約を考える/請負業者の担保責任について


請負契約は仕事完成を目的とするものなので、仕事完成前は一般原則の契約総則規定によって、当事者の利害関係を調整する、という旨のことを「請負契約を考える/仕事完成前の解除について」というエントリーで書きました。

今回は、一応仕事が完成した後の法律関係について設問を題材として考えてみたいと思います。





AはBとの間で、A所有の土地上に2階建住宅を新築する工事について、請負代金を2,000万円とし、内金1,000万円は契約締結時に、残金1,000万円は建物引渡し後1カ月以内に支払うとの約定で請負契約を締結した。

今回もこの基本事例について考えます。

設問2 Aは、Bに内金1,000万円を支払い、Bは約定の期日までに建物を完成させてAに引渡した。ところが、屋根の防水工事の手抜きのため、引渡し後1週間目の大雨によって建物の2階の書斎に雨漏りが生じ、書斎内のA所有のパソコン等が使い物にならなくなってしまった。雨漏りによるパソコン等の損害を50万円、屋根の補修工事に要する費用を100万円とした場合、AはBの請負残代金請求に対してどのような主張をすることができるか?
Aはまだ請負代金2,000万円の内、残金1,000万円は支払っていません。このとき、請負業者Bは注文者Aに対して請負残代金支払請求をしてきました。Aは支払を拒めるか?拒めるとしてもいくら拒めるのか?相殺は?その点が問われていることになります。

まず、前提として本問のように屋根の防水工事が手抜きの場合に、請負契約の要素である仕事完成義務を履行したことになるのか?
仮にこの義務を履行したことにならなければ、設問1で検討したのと同じように、仕事完成前の法律問題になりますので、契約総則規定である債務不履行の問題として処理すべきことになり、請負人の担保責任の問題を論ずる必要がありません。


この点、本問では「建物を完成させてAに引渡した」とあるため、論ずる必要はありませんが、単なるブログですので少しくらい考えておいても良いように思います。

結構微妙ですよね。

もし完成してなければ当然請負代金支払請求権は発生しないわけですから、注文者Aとしては残代金を支払う必要がないということになります。
けど、実際にこの設問のように雨漏りがひどかったとしても、仕事は「完成」していると評価するのが一般的です。つまり、「仕事の完成」と「瑕疵がない」というのはイコールではありません。
それは、仕事完成を前提とした請負人の瑕疵担保責任を規定する民法自体が語っているところです。とはいえ、請負契約の内容として「瑕疵のない完全な仕事をすること」が含まれていると考えられますから、請負の瑕疵担保責任の規律は、債務不履行責任の特則ということになります(契約責任説)。

実際には、対象目的物の施工工程を経た建築物については、仕事はいちおう完成しており、契約目的物が特定されていると評価できます。したがって、よほど建物としてのカタチを備えていないような場合でない限り、工程を経た建物を未完成であると主張して報酬債務の支払を拒むことはできないでしょう。





さて、完成したといえることから、請負業者Bは目的物を注文者Aに引渡した以上は請負代金請求権を行使することが可能です。では、Aは損害額50万円や修補工事に要する100万円を負担しつつ、1,000万円も支払わないといけないのでしょうか?

それはおかしいですよね。
仕事完成義務を負っているというのは請負契約の要素ですが、そこには瑕疵のない目的物を提供するという当然の義務が含まれているはずです。建築工事請負契約の当事者の合理的意思を解釈しても当然に導けるでしょう。
ところがもし注文者はまず1000万円をまずBに支払わなければならないとすれば、悪質業者は適当に建物を建築して報酬を持ち逃げしてしまうかもしれません。

そこで、雨漏りによる損害額50万円と、修補費用100万円の性質をまず考えます。なぜなら、これらが請負代金と牽連関係を有していないとすれば、AにはBの請負残代金請求に対して主張できることは「何もない」ということになってしまうからです。

仕事の目的物に瑕疵がある場合、注文者は請負人に対して、当該瑕疵の修補(修理)を請求できます。また、損害賠償の請求も可能です(634条2項)。つまり、修補しろと請求するか、修補に要した費用を請求するか、または両方請求するか、を選択できるわけですね。
そのため、修補費用100万円の支払請求は可能ですし、請負人の担保責任が債務不履行責任の特則であることから、損害賠償の範囲に履行利益も含まれ、雨漏りと相当因果関係のある損害についても賠償範囲に含まれると解されます(民法416条1項)。

そして、これらの損害賠償債務と報酬支払債務全額とは同時履行の関係に立ち(634条2項,533条)、契約当事者の一方は、相手方から債務の履行を受けるまでは自己の債務の履行を拒むことができ、履行遅滞による責任も負いません。もっとも、瑕疵の程度や契約当事者の交渉態度等に鑑み、この瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残代金債権全額の支払を拒むことが信義則に反すると認められるときは、対等額に限って同時履行の関係が認められる、とするのが判例です(最判平成9年2月14日民集51巻2号337頁)。


このことから、Aは同時履行の抗弁権を主張することにより、請負残代金の支払を拒絶することが可能です。
さらに、対等額において相殺を主張することも可能です(850万円だけ支払うことになる)。

この点、法理論的には同時履行の抗弁権が付着した自働債権をもって相殺はできないのではないか(505条1項ただし書)との疑問も生じ得ますが、本件のように単なる決済の処理に用いる場合には妥当しません。

すなわち、一般的に抗弁権の付着した自働債権により相殺が禁止される趣旨は、抗弁権において担保されている債務者の期待を一方的に剥奪することになるからです。ところが、本件のような場合、確かに同時履行の抗弁権が付着していますが、注文主と請負人の両債権は同一目的物に対する一連の費用請求権であり、相殺禁止の趣旨が妥当しないからです。

したがって、本設問の解答としては、AはBの請求に対して、150万円の損害賠償請求権と1,000万円の請負代金請求権を対等額で相殺するとの主張が可能、と答えることになります。



なお、瑕疵を理由とした解除権の主張も考えられますが、雨漏りが生じる程度で(補修可能な程度)請負契約を締結をした目的を達することができないとは到底言えないため、解除権は否定されると考えられます。

これには府に落ちない人がいるでしょうが、解除権の行使により生じるドラスティックな効果(原状回復)を肯定すれば、社会経済が成り立たないでしょう。どんな会社に依頼するか、どんな契約内容にすべきか、一生に一度の大きな買い物だからこそ適当に済まさないように気をつけましょう。




 
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