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2012年3月24日

請負契約を考える/仕事完成前の解除について


一生の買い物、といえば新築住宅の購入が挙げられます。夢のマイホーム計画なんて言葉が久しく感じられますが、それでも家を建てるというのは人生で一度くらい経験したいもの。様々な夢が詰まった新築住宅は、その思いの強さゆえに、欠陥が見つかった場合には非常に残念な思いが生じます。

今回は、このような新築住宅を建てる際に起きる典型的な問題を題材に、「請負」契約を考えたいと思います。




AはBとの間で、A所有の土地上に2階建住宅を新築する工事について、請負代金を2,000万円とし、内金1,000万円は契約締結時に、残金1,000万円は建物引渡し後1カ月以内に支払うとの約定で請負契約を締結した。

これは過去に司法試験で出題された事例らしいです。基本的な契約の内容は、この事例と同じでしょう。Aとしては、新築住宅の請負工事を依頼するために土地を手に入れたり、既に持っている土地を請負業者に明け渡すために賃貸住宅に仮住まいする場合もありますね。そんな背景事情を思い浮かべつつ、以下の設問を考えてみましょう。

設問1 Aは、Bが行ったコンクリートの基礎工事が不完全であるとして、Bに工事の追完を求めたが、Bは基礎工事に問題はないと主張してその後の工事を進めようとしている。AはBとの契約関係を終了させるためにどのような主張をすることができるか?

一般人のAが「こんな基礎工事では全然ダメだ」と言ってみたところで、請負業者としては言いがかりだと思うでしょう。専門家である業者に依頼しているのだからイチイチ口出ししないでほしいと思うかもしれません(ただきちんと業者は施主に基礎工事の説明をすべきでしょう。)。

さて、この設問では、Aが「基礎工事が不完全である」と考えて追完(完全なものにすること)をBに求めているわけですが、本当に不完全であるかどうかは設問からは読み取れません。実際上Aがこのような主張をするためには、この部分を認定することが何よりも重要ですが、試験問題としては不完全であるという主張を一応正しいと考えて考える必要があります。

なお、基礎工事とは、家を支えるための土台を形成する工事です。土地の状態や、構築する建物に応じて、適切な土台を形成することはとても重要なことです。地震の多い日本では、この部分を疎かにしてはなりません。Aが、何かしらの事情で基礎工事の不完全性を考えるようになったのは、意識の高い施主として尊重すべき部分ではあります。ただ、100%正しい基礎とは何か?と言うと奥深い部分もありますので、今回は割愛します。すみません、脱線しました。


この設問の事例に関して言えば、注文者と請負業者との間に良好な関係は崩れてしまってますので、契約関係を解消することは十分ありえます。では、解除に向けた考え方を説明します。


請負契約とは「仕事を完成する義務」と「完成した仕事の結果に対する報酬支払義務」によって成立する契約です。つまり、請負人は仕事を完成する義務を負うため、建物を構築するに当たって通常有すべき安全性を欠いた工事を行えば、そんな建物に安全に住むことができないのですから契約を解除することができます(民法635条)。

しかしながら、法律上、この請負契約特有の解除権は、仕事完成という「結果」に対して発生するものであり、未だ基礎工事の段階に過ぎない今回のような未完成のケースの場合には、この解除権を行使する前提に欠けてしまいます。
したがって、本条による解除権を行使することはできません。

そこで、請負業者は、建物建築請負契約に当然に予定されている安全性を具備する基礎工事を施工する債務を負っていると解し、同債務を履行していない点をもって、一般原則である債務不履行に基づく解除を主張することが考えられるでしょう(民法541条)。

ただ、解除を行っても原状回復義務が生じますので(同545条1項)、工事に要した必要最低限の費用(使用した材料費など)は注文者も支払う必要が生じます。

なんでそんなお金を払わなければならないんだ?と思う人もいるでしょうが、「業者を選択したのはあなたですから」というのが理由としか言えないように思います。


以上のような解除の仕方以外にも、もっと簡単な方法があります。

すなわち、請負契約においては仕事が完成するまでの間は、注文者はいつでも解除をすることができます(同641条)。もっとも、この場合は理由のいかんを問わず行使できる解除権ですので、注文者は請負業者に対して損害賠償を支払う必要があります。

本件でこの解除権を行使する場合には、注文者Aは請負業者Bに対して、基礎工事の段階までに要した費用(人件費も含む)や、場合によっては調達した未使用の建築資材の費用も負担しなければなりません。つまり、いずれにせよ解除をする際にはお金を支払う必要が生じるわけですが、どのような法律構成によって解除権を行使するかによって、その費用の大きさが変わってくるということです。

ですので、債務不履行の有無を検討したうえで、不完全履行の証明が難しいと判断すれば、本条の解除権を行使するしかないでしょうね。


いずれにしても、これは民法上の話しに過ぎません。

契約で別段の定めをしていれば、その規定が優先的に適用されますので(同91条)、契約段階で想定できる問題に対処できる契約書の作成をしておくことや、請負業者も丁寧に注文者に説明して良好な契約関係を維持・構築することが大切でしょう。



次回は、目的物の完成後における請負業者の担保責任について考えてみたいと思います。


 
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