オリンパス元社長の英国人マイケル・ウッドフォード氏は六日の記者会見で「社長を解職されたのは不当」としてオリンパスに損害賠償などを求める訴訟を起こす考えを示した。ウッドフォード氏は会見に先立ち声明を発表。社長復帰を断念する意向も表明した。・・・(東京新聞)
委任状争奪戦(プロキシーファイト)を断念すると発表した、M・ウッドフォード氏がオリンパスを訴訟提起する意向を示したとのことです。至極当然な流れでしょう。
ウッドフォード氏のオリンパスの地位は「代表取締役社長( Chairman & CEO )」というものでしたので、法律的に考えると、「正当な理由」(会社法339条2項)に基づかない解任として損害賠償請求を行うことが可能です。今回ウッドフォード氏が請求の根拠規定としてどの条項を持ち出すかは分かりませんが、会社法339条2項と民法の不法行為の規定が挙げられるでしょう。そして、「正当な理由」の有無として、「独断的な経営」「他の取締役とのかい離」というオリンパスが主張する事実が客観的に損したかどうかが争点になると思われます。
ここで法的な詳細については触れるつもりはありませんが、上記二つの根拠規定はその法的性格・要件事実が異なりますので、取締役会を構成していた他の取締役の主観的事情によっては不法行為責任は認められる可能性が高いでしょう。
損害賠償の相手としては、取締役らに対する場合と、会社に対する場合とでいずれも考えられますし、両者を訴えるのが自然です。「オリンパスに賠償などを求める」とありますが、その当たりは意向を伝えただけですので、現時点では不明確です。
ウッドフォード氏が委任状争奪戦を断念しましたが、断念したから当てつけに損害賠償を請求しているわけではありません。両者は全く別個の問題であり、個人の利益回復のための手段として損害賠償請求はとても重要なものです。この点は押さえておかなければなりません。
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今回の一件は「良し悪し」の問題は置いておくとして、やはり日本と欧米との市場の文化が違うという点はハッキリ表れているように思います。そして、その点については日本の市場のあり方を明確にすべき部分ではないでしょうか。
今後、ヒトやモノの移動がこれまで以上に自由になれば、必然的に日本独自の企業風土を「文化の違い」に押し込んでいられなくなると思います。かと言って、常に欧米の価値基準にベッタリしていく必要はないと思いますが、大企業はそれぞれの立場を明確にしていく必要があります。オリンパスの一件についての後処理は現在も進んでいますが、どこで手を打つか・どこで区切りをつけるか、というのをハッキリ示さないとズルズル旧経営陣の不祥事を引きずり、ウヤムヤのまま忘れ去られるだけのように感じます。それでは国際的な日本企業の態度としては弱いと思います。
本日の産經新聞で、オリンパスの調査委員会から経営陣の法的な責任を認定がなされたとの記事がありました。今後、関係役員に対する責任追及訴訟や、株主代表訴訟が提起されるでしょう。一応の解決はこの役員の責任追及訴訟で終結するものと思われますが、内部統制システムの見直しや監査制度の実効性確保に向けてルール整備がなされることも欠かせません。オリンパスの不祥事が実は同社に限ったことではないという声も聞きます。
日本の市場に対する海外の不信が蔓延してほしくはない。かといって、どこまでいけば日本市場としての一応の完成なのか。最近よく思います。