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2012年1月5日

戸籍は身分関係を公証するもの、という意味について



以前、住民票について書きました(該当エントリーはこちら!)。住民票は、私たち市町村住民にとっては居住関係を公証するものである一方、地町村にとってはまた少し異なった目的があるのですよーっていうお話でした。


証明というのは、裁判においてのみ要求されるものではなく、普段の生活においても証明は要求されますし、何よりも「説得力を持たせる」ためには根拠(証拠)の明示が重要です。

今回は戸籍制度をさらっと流したいと思います。戸籍謄本も私たちの証明手段として無視できない存在感を持っています。ただ、戸籍制度は歴史的な背景が深く感情的な議論にもつながるため、利用者である我々の便宜の観点から、戸籍制度を振り返ってみたいと思います。


1 戸籍は合理的な管理制度であった 

戸籍は、原則として親と子を一個の単位(父・母・子)として編製されており、戸籍には下記の事項が記載されています。
  • 氏名 
  • 出生の年月日 
  • 入籍原因・年月日 
  • 実父母の氏名・実父母との続柄 
  • 養子であるときは、養親の氏・養親との続柄 
  • 夫婦については、夫または妻である旨 
  • 他の戸籍から入った者については、その戸籍の表示 
  • 法務省令で定める事項 
 戸籍制度は、国民の出生から死亡までの法律的な身分関係の履歴を、「家」という一つの集合体ごとに記録・管理することにより、徴税や徴兵を効率的に行うという趣旨がありました。トップダウンに管理するためには、集合体のピラミッドを作り上げ、それぞれに責任者を設置することで、管理が容易になることは経験上理解できるところです。従来の「家」制度とは、筆頭者という責任者を設置することにより、国家の管理を合理的にあらしめるために存在したのです(その反射的な効果として、筆頭者に事実上の権力性が肯定されたといえるでしょう。)。

しかし、現在の行政サービスの中心は、住民票を情報のより所として形成されており、戸籍制度の役割は相対的に低下してきていると言われています。もっとも、相続が発生した場合の相続人の確定や身分関係を証明する手段としての戸籍の役割は一応肯定されていると言えます(その手段が戸籍でなければならない必要性はないのですが)。


2 戸籍に関わる届出は並べてみると多い!

戸籍に変動が生じた場合、私たちは届出を行わなければなりません。この届出を怠ると5万円以下の過料(あやまちりょう=刑罰ではない)に処せられます(戸籍法第135条)

届出が義務づけられている事項は下記の通りです。
  • 出生 
  • 認知 
  • 養子縁組 
  • 養子離縁 
  • 婚姻 
  • 離婚 
  • 親権・未成年後見 
  • 死亡・失踪 
  • 生存配偶者の復氏・婚姻関係の終了 
  • 推定相続人の廃除 
  • 入籍 
  • 分籍 
  • 国籍の得喪 
  • 氏名の変更 
  • 転籍・就籍 
これを見ると、私たちが一生の間にどのような身分上の変動が生じるのかが分かる気がしますようね。

3 戸籍は本人以外にも取得できる

さて、このような身分の遍歴を、誰が確認することができるのでしょうか。言うなれば、超!個人情報ですので、その範囲が厳格に定められなければなりません。この点、戸籍法では以下のように規定されています。
  • 戸籍に記載されている者 
  • その配偶者 
  • 直系尊属 
  • 直系卑属 
 原則として上記の者に限られているのは当然でしょう。しかし、上記以外にも請求できる者がいます。 
  • 自己の権利を行使し、または自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合 
  • 国・地方公共団体の機関に提出する必要がある場合 
  • 正当な理由がある場合 
  • 国・地方公共団体の機関 
  • 弁護士や行政書士などの一部の士業 (受任している事件・事務に関する業務を遂行するために必要な場合) 
ほとんどの人は自分で請求するでしょうが、場合によっては代理人による取得も認められています。また、行政書士が遺産分協議書を作成する場合などにも戸籍謄本を取得する必要が生じますので、一定の方法により認められているわけです。このように、法律上は戸籍謄本等の証明書を請求できる人は限られてはいるものの、実際には第三者による取得も可能となっています。


4 戸籍って本当に必要なのか?

このように超個人情報が掲載された戸籍簿ですが、戸籍ってそもそも必要なのなのでしょうか?

日本では従来から戸籍があるのが当たり前であり、この制度を前提に様々なルールが構築されています。そのため、夫婦別姓非嫡出子の問題など、制度が生み出した不合理な問題が生じています。しかしながら、これらは「夫婦は同姓を名乗るもの」「子どもは婚姻関係のある男女から生まれるべきもの」という、あたかも正しいことのように言われている不確かな常識が蔓延しているために、一向に改善される様子はありません。
たしかに同姓であれば一体感が生まれる感覚があるのは否定しませんが、そんなの無くても結婚はうまくもいけば、破綻もします。それは姓の問題とは関係ありません。また、子どもの生育に関しても、婚姻関係と子どもの生育を関連づける論理的な必然性は肯定できません。婚姻関係があろうがなかろうが、子どもの成長に必要なのはそれ以外の環境要素であることが多いのです。

現在でもなお非嫡出子という概念を生み出す制度を憲法に違反しないとするのは、やはり制度がおかしい。婚姻制度が存在し、それを前提として日本社会が成り立っている以上、形式的に考えれば非嫡出子の取扱いはむしろ恩恵的であるという主張(判例)は、価値観としては間違っていると思うわけです。しかし、司法は婚姻制度の存在を前提とした憲法に拘束されるため、ある意味で現在の合憲判決が続いてしまっていることは悲しいことですが仕方ないとも言えます。ただ、憲法は個人の尊厳に最大の価値を置いていますので、近い将来、必ずこの問題は立法もしくは司法において解決されると信じています。
 
少し話しが外れてしまいましたが、このような大きな議論とは別に、ひとまず戸籍制度さえなくしてしまえば(住民票と一体的に管理すれば)、解決される問題があるわけです。個人番号制の導入はまさに「個」として管理することへの大きな一歩なのです。これを機に「戸」による管理なんて止めてしまえばいい、「個」として管理すれば事足りるではないか。私はそう考えます。


コスト・ベネフィットや、良い悪いという感情論、歴史的背景など議論の軸が多様に存在する戸籍制度ですが、あくまでも「制度」なのですから必要性の観点で検討するべき事項でしょう。 とはいえ、ここでは立法論に立ち入るつもりはありません。
今回は、我々がどのように現在の戸籍制度と付き合うのかという観点から、戸籍に書かれている事項戸籍に関する届出・作成された戸籍謄本の請求権者について見てみました。



(それでは。)
 
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