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2012年12月24日

【週刊読書】「考える」ということ|『数に強くなる』(畑村洋太郎)



インプットした情報から具体的に考えるということはどういうことか。

人に何かを伝えるとき、説得力のある言葉に「数」は欠かせない。しかし、最近は定性的なものが好まれる傾向があり、随分焦点がぼやけた表現が増えてきている気がします。

今回、具体的に物事を考えることの大切さを伝える方法として、一つの参考になるのではないかと思い、一冊の本を読みました。『数に強くなる (岩波新書)』とはどういうことなのか?気づきの多い一冊、ご紹介いたします。(― Blogging Worker's Style)




「この本は、数学の本ではない」

これは「はじめに」で書かれているものです。著者のハタムラ氏は「数学」という学問的に閉じた世界を書くのではなく、実社会に即したリアルな「数(かず)」を書こうと筆を取ったそうです。

では、「数」に強くなるとはどういうことか?食糧自給率とTPPとの関係を例に、具体的に考えてみましょう。




たとえば、「日本は食料自給率が低い。農業を守るためにTPPへの参加は慎重になるべきだ。」という主張を耳にします。

さて、この主張についてはあなたはどのように考えますか?

まずはこの主張が正しいのかどうかをきちんと把握する必要があります。
食糧自給率とは、国内の食料消費が、国内の食糧生産でどの程度賄えているかを示す指標のことを指します。つまり、日本国民1億3000万人の食糧消費を、日本の農業でどの程度カバーしているのか?ということを、食糧自給率というわけです(定義の正しさについては触れません。)。

農林水産省の公表によれば、日本の食糧自給率は39%とされています。これはカロリーベースです。計算上、国民一人当たりが摂取するカロリーは1日当たり2,500キロカロリーとされているので、1日当たり約950キロカロリー分が国内の農業でカバーされているということです。逆に言えば残りの1550キロカロリー分は輸入に頼っているということです。

じゃあ、翻って「日本は食料自給率が低い→TPPへの参加は慎重になるべきだ」という主張はどういうことでしょうか?

食糧自給率がカロリーベースで考えて低いとき、私たちのスタンスとしてはざっくりと以下のようなものが挙げられます。


  1. 農業の活性化(自給率の向上)
  2. 輸入の維持(外交重視)
  3. 別の観点で考えるべき
  4. このままでよい(何もしなくていい)


食糧自給率の計算には、いろいろ問題点があると言われています。
たとえば、カロリーベースで39%とはいっても、その計算上のカロリーは摂取カロリー数であって必要カロリー数ではないという問題や、国内産の豚や牛を食べていたとしてもその豚や牛が食べる飼料が輸入品だとすると食糧自給率の計算上は「輸入品」として扱われてしまったりと。

これ以上は今回のエントリーの趣旨から外れてしまいますので、別の機会に「TPP×食糧自給率×農業」をテーマに書いてみたいと思います。

ちょっと分かり辛い例を挙げてしまいましたが、要するに具体的な数をもって考えることをしないと、さらに先の議論はできないわけでして、そもそも議論の中身も理解できないということです。「なぜ自給率を問題にするのか」「どの程度の自給率なら問題ではないのか」「高カロリー食品を増やせばカロリーベースの食糧自給率は上昇するではないか」「逆に、TPPに参加すると具体的に何がどの程度よくなると見込めるのか」など、カロリーベースの議論の中身を理解していくと、次に考えるべきことが見えてくるわけですね。

TPPの議論にはこういう数の操作というか不明確な部分がたくさん含まれており、主張者ごとの思惑が隠れていたりします。




あらゆる物事には「数」が隠れており、「数」をもって表現することができるので、この「数」を自由に扱えるようになると、応用が利くようにもなるとハタムラ氏は述べられています。

人を説得するためには、抽象的な話も超身近なレベルの話しにまで落とし込む必要があります。特に私たちのように法律に則って手続を進めたり議論をする人種は、抽象的な論理ばかりが重要視しがちですが、それだけではなかなか人を説得することはできないものです。


冒頭で定性的なものが好まれている雰囲気があると書きましたが、それ自体は否定されるべきではなく、その定性的なものをいかに定量的に表現できるようになるかが表現の重要な部分になってきているように感じさせてくれる、そんな一冊です。

題名はお堅い本のように感じますが、非常にユーモラスで数学的な本ではありませんので、安心して「数」の門をたたいてみることをオススメします。







ところで、今回のエントリーでは何の前触れもなくタイトルに【週刊読書】と付けてみました。その名のとおり、毎週読書日記をつけるというものです。

今年の反省として、本を読む量が極端に減ってしまったことが挙げられます。一年間でたぶん50冊くらいなんじゃないかと思います・・・

先日ツイッターでも書いたのですが、大学院時代にお世話になった先生から「ざるに水を溜めるようにインプットしなさい」と言われたことがあります。すごい表現ですよね。

でも、この先生は本当にそういうふうにインプットをする人なんです。それくらいの量を勉強しないと本当に理解なんてできないし、多角的に物事を考えることなんてできないのだ言います。

彼は現在の最高裁判所判事の一人。頷(うなず)けます。

ということで、最低でも週に一本は読書感想を書いていくことにしました。読書量はもっと増やして、来年は年間100冊は最低でも読みたいと思います。歴史やフィクションも読みたいですね。

 
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