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2011年12月1日

自転車に対する規制強化


東日本大震災をきっかけに、首都圏でも自動車や公共交通機関から自転車の利用に比重を置き始めている人たちが増えています。また、環境配慮自動車(ハイブリッド車や電気自動車など)が市場に占める割合が大きくなってはきているものの、価格などの点からいまだにお手ごろ感を感じにくく、環境への配慮という点で自転車が果たす役割は決して小さくありません。他方で、自転車による歩行者に対する事故が頻発おり、特に人命にも関わるような事案が目立ってきているため、最近は自転車走行に対する規制を強化する機運が高まっています。

そこで、私も自転車ユーザーの1人として、また、一人の法律家として、自転車を取り巻く最近の規制の動きについて、日本全体、さらには私が拠点とする茅ヶ崎市の状況を簡単に確認してみたいと思います。自転車事故とその規制、救済手段など、自転車利用者として最低限押さえておきたい現状を押さえておきましょう。

自転車事故について興味がある方は、宜しければご覧ください。

1 自転車事故に対する取り締まりのトレンド 
(1)事故件数の推移 
実際に自転車事故はどの程度発生しているのでしょうか。以下に二つの表を引用しました(引用元は京都府警察HP)。上の表が「自転車交通事故の発生件数」で、その内の「自転車対歩行者の交通事故の発生件数」の推移を示すのが下の表になります。
自転車乗用中の交通事故発生件数の推移

自転車対歩行者の交通事故件数の推移


この二つの表を見ると、実は昨年の自転車乗用中の事故発生件数は10年前のそれとほとんど変化がありません。しかしながら、全交通事故件数はこの10年で約4分の3になっています(約25%の減少)。他方で、自転車事故の占める割合は増加しており、また、歩行者に対する自転車事故の件数が約2倍になっていることからすると、自転車に対して規制強化すべきとの結論は、一応正しい方向と言えるでしょう。


※なお、自転車保有台数は、自転車協会の平成20年度の調査によれば、平成13年における保有数は6,500万台であるのに対し、平成20年(調査はこの年で終了)は6,900万台と約6%の上昇しています。この上昇値を大きく見るかどうかは別として、自転車事故件数自体はほとんど変化していないことからすると、規制強化を社会的なコストとの関係でどれだけ強調すべきかは、実は何とも言い難いようにも感じます。ただ、正しく規制が行われれば、自動車事故件数の減少に見られるように、自転車事故も大幅に減少することが見込めることは間違いないでしょう。特に、瞬時に身動きを取ることのできない高齢者が今後増加することを考えると、歩行者としても自転車ユーザーとしても、しっかりとルールを適用することが、安心して住める街づくりには欠かせないように思います。


(2)加害者が負う法的リスク 
自転車もまた道路交通法(以下「道交法」と言います。)の「車両」に該当するため、道交法上の義務を免れることはできません。たとえば、飲酒運転をすれば逮捕される可能性があり、その結果として5年以下の懲役100万円以下の罰金を払わなければなりませんし、信号無視をすれば3カ月以下の懲役5万円以下の罰金を支払わなければなりません。さらに、夜分に無灯火で自転車を運転していた人が、ご老人と衝突し、後遺障害が残ってしまったという事案が今年ありましたが、このケースでは重過失傷害罪(刑法211条1項後段)で起訴されています。道路交通法上の規定のみならず、直接刑法が適用されるケースもあり得るわけです。

同時に、加害者には不法行為責任が成立するため、民事上の損害賠償責任も負うことになります。この場合には、治療費から後遺症の賠償責任まで当然負うことになるため、その金額は1,000万円以上になるケースも出てきます(5000万円を超えるケースもあります)。

このように、免許も不要で、幼い子どもから高齢者まで誰でも運転可能な自転車においても、運転者は非常に大きな責任を負うという自覚を持たなければならないわけです。と、口では簡単に言えますが、なかなか難しいというのも実情です。そして、それがこれまでの一種の社会通念を形成してきたという側面は否定できないわけです。

以上は国レベルで見た全体的な状況です。次に、茅ヶ崎市の状況を見てみましょう。

2 茅ヶ崎市の状況(県内ワースト2っ!?) 

私が活動拠点とする神奈川県茅ケ崎市は、自転車事故の全交通事故件数に対する割合は神奈川県においてワースト2(なんと約37%!)にランクインされているということをご存知でしょうか?正直私は大変驚きました。もちろん、純粋に自転車事故の発生件数だけを見れば、人口数の多い川崎市や相模原市の方が多いわけですが、件数だけを見ても自転車交通事故多発地域に指定されております。

要因としては、いろいろ考えられますが、たとえば、茅ヶ崎市は他の地域に比べて高低差が少なく、自転車利用に適しているためユーザー数が多いということは一つ挙げられるでしょう。私も自転車で移動する機会が多いですが、高低差がきつければ市内の移動でも車を使うことが多いと思います。しかし、それ自体が自転車事故の件数を上昇させてしまうことを正当化するものではありません。

3 自転車事故の問題点 


(1)規制の中途半端さ 
冒頭で自転車にも道交法の適用があると書きましたが、それでも実際に取り締まられるケースはこれまで非常に少ないのが現実でした。現実問題として、取り締まる側(警察)の人員も限りがあるわけですし、自転車がそもそも持っている危険性自体は大きなものではありません。自転車が有する危険性を除去するためのコストを考えたとき、得られる利益よりも失われる不利益の方が大きいという経済性があることも否定できません。

また、このような抽象的な理由とは別に、日本において道路は、自動車と歩行者の存在を念頭に設置されてきたため、自転車を規制する法律と、実際上のインフラとの間にギャップが生じていたということもあります。歩行者を自転車から守るという必要性は以前からありましたが、自転車を自働車から守るという必要性もあります。しかし、その両者を満たすような道路は国土の小さなわが国では現実問題としてなかなか実現できない、というのが言い訳として成り立っていたわけです。

しかしながら、「現実は・・・」なんて理由で人命をないがしろにしてはなりません。そういう当たり前の「常識」が今改めて見直されてきた、と言えるのではないでしょうか。

(2)保険制度 
ところで、自転車規制に対する必要性を補足するものとして、さらに保険制度を挙げることができます。日本では自動車を所有するにあたり、自賠責保険に加入することが義務付けられています。これは、自動車事故の被害者を、資力の乏しい加害者から金銭的な面で補償することに目的があります。

自動車の自賠責保険(引用元:損保ジャパンHP
この制度の趣旨は、自転車事故にも当てはまるはずですが、自転車を所有するに当たって自賠責保険への加入は義務付けられていません。そのため、実際に自転車事故が発生して被害者に損害賠償請求権が認められても、加害者の無資力の危険(リスク)を被害者が負わなければならないわけです。ここに、多発する自転車事故を見過ごすわけにはいかない大きな理由があります(以前から分かってはいたことですが。)。

4 茅ヶ崎市の行政書士として 


(1)自賠責保険のような手続があるのか(国や地方公共団体の補償) 
このような状況で、最低限の被害者救済の直接的な制度は国や地方公共団体には用意されていません。そこで、TSマーク付帯保険というものがあります。TSマーク付帯保険とは、 自転車安全整備士による点検、整備を受けた安全な普通自転車であることを示すTSマークに付帯した保険です。TSマーク(シール)を貼付された自転車については、有効期間(1年間)内における人身事故については、公益財団法人日本交通管理技術協会と損害保険会社(6社)との間で締結された保険契約に基づき、一定額の保険金が支払われます。

具体的には、自転車運転者が自転車交通事故により負傷した場合には、入院等の一定のケースの場合に限って補償金が支払われ、第三者を死亡または重度後遺障害を負わせるに至らせてしまった場合には、自動車損害賠償補償法の後遺障害等級に応じて一定額の賠償金が支払われることとなります。

※TSマークの詳細(補償額・賠償額の上限)については、協会のHPをご参照ください。


(2)行政書士としてできること 
以上、簡単にではありますが、自転車事故の推移や、茅ヶ崎市の状況、被害者救済制度について概観して参りました。私たちが初めて一人で乗るようになる車両は、ほとんどの場合は自転車です。それだけ身近な存在である自転車が、場合によっては運転者や第三者の人生を突如として変えてしまう危険性があるのは事実です。でも、これらの危険性は、意識一つで相当下げることができます。自転車による衝突が引き起こす危険性を認識し、責任を持って運転する、そういう当たり前のことを「常識」として共有し、実践していけばほとんどの事故は避けられます。

今後、環境への配慮や、自動車保有者の減少により、自転車の人気はまだまだ高まることが予測されます。同時に、自転車に対する規制はよりハッキリと強化されていくでしょう。茅ヶ崎市の「市議会だより」では、自転車免許証の導入など条例での規制強化に関する一般質問が掲載されていましたが、免許制や、上記TSマークのような保険制度の強制加入も今後あり得る方向性です。

事業者の方々にはTSマーク普及を促して頂き、事業者としての付加価値を付けていってもらえたらと思います。それにより、自転車の販売という「点」のみならず、1年に最低1回の点検を同じお店に依頼することで「線」として継続的な関係も構築できるかもしれません。社会のために良い仕事をする、という一つのカタチかなぁなんて思ったり。

自転車屋さんがもしかしたら自転車事故を撲滅させるキーマンかもしれませね。行政書士として、制度に関するご相談や、実際の事故におけるご相談も承ります。住みやすい街づくりを皆の手で。


(それでは。)

【参考】
広報ちがさき(PDF)
TSマーク付帯保険とは(公益財団法人日本交通管理技術協会HP)
 
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