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2012年5月4日

現状維持では首の絞め合い|福井県方式導入より新たな刺激


今朝の新聞に「停止原発に課税」という記事がありました。「ん?どういうことだ?」と思って、読んでみると、何だか分かるようで分からない難しい問題があるようで。原発は停止すべきか稼働させるべきか、安全性に対する議論とは別角度の思惑もあるようなので、ちょっと調べてみました。


原発と課税


原子力発電所は、それ自体一つの事業として行われているため、固定資産税・事業所税・法人税・法人住民税・消費税は通常の事業者と同様に支払っている。

これ以外にも今回の新聞記事で紹介されている核燃料税というものがある。原子炉に装填した核燃料の価格や重量に応じて課税する仕組みで、地方税の一つ。原子力発電所を抱える都道府県が条例で課税するものだ。

昨年の東日本大震災で、原子力発電所に対する国民の考えは非常にネガティブなものとなりました。一回の事故から回復不可能な損害が発生することを目の当たりにし、原発から得られる効用よりも、その危険性の方に注目されたため、今後日本で原発が稼働することは実際問題として難しい状況です。

とはいえ、原子力発電所に関係する税収は非常に大きなものであり、地方財政に無視できない影響が生じてしまいます。


そこで、昨年福井県で取り入れられた手法として、停止原発にも課税するという条例改正が行われました。これを福井県方式と言います。

なぜこのような改正が可能なのでしょうか。
会社が利益を上げていないと法人所得税を課されないのと同様に、税金は本来、税金を納めるだけの余力が生じる場所に課税されるものです。しかし、核燃料税は、原発立地に伴って必要となる周辺道路の整備や安全対策を講じるための財源として課税されるもの。これらの整備費用や安全対策費用は、原発が稼働していようが停止していようが生じるものなので、課税できて当然というのが、県の言い分のようです。

地方公共団体としては税収を下げたくないというのが本音としてあるわけですが、ことはそう単純には済みません。


税負担が増えればそれを負担するのは誰か


最近は原子力発電業者が悪者のように言われることが多いように感じますが、原発のおかげで私たちは安価で電気を利用できているという点を無視できません。原発は稼働コストと環境面の双方から優れたパフォーマンスを発揮するため、これまでの安い料金で利用することができました。

ところが、原発の安全性をイチから見直し、場合によっては閉鎖するという流れのなかで火力発電に戻しています。火力発電の稼働コストは原子力発電と比べて高いため、そのコスト高は利用者が負担せざるを得ないのが実体です。自然エネルギーもさらにコストが高まるため、電気料金の値上げは避けられません。


その中で核燃料税も課せられるとすれば、電力会社としては財務体質が悪化してしまうため、電気料金の値上げにさらに追い打ちをかける状況となります。


現在原発が立地するのは北海道と12の県。各県の税収を補うためには原発が停止していても少しでも税収を増やしたい。しかし、その結果電気の利用者に負担が転嫁される。

議論の前提は「現状維持」


原発の課税関係についてはこれまで考えたことがなかったんですが、原子力発電所を稼働するために導入される人員の数や、施設としての規模の大きさがもたらす建造物としての観光名所、多くの関係者が町に訪れることによる経済効果は、非常に大きいんですね。

この大きさを、他の発電施設に置き換えてみるとどのような結果となるんでしょうか。

もともと、国内の発電量の7割ほどを担っている火力発電所は、雇用促進という意味では原発に劣るものではないでしょう。火力発電だから地方財政が悪化するというものではないと思います。

他の発電施設を設けるにも、一定の経済効果はあるように思います。


このように考えてみると、結局のところ「現状維持」を前提とした議論に過ぎないように思います。

人が動けばカネが動くのですから、経済効果や税収はより大きな視点から判断しなければならない問題です。

地域の経済を活性化したい・税収を増やしたいと考えるのであれば、現状からいかにたくさん回収するかを考えるよりも、パイを増やすような方向で議論を進めるべきだと思うんだけど、どうなんでしょうか。
 
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